2008年4月4日金曜日

〔好評既刊書〕『現代チベットの歩み』~関係国の多数の資料によって「チベット問題」に挑む


『現代チベットの歩み』
  A.T.グルンフェルド 著/八巻佳子 訳 東方書店 3,873円

 現代世界において、いまだ冒険と放浪の地、もしくは独特の風俗に対する好奇の対象といった目でとらえられがちなチベット。そのチベットを歴史的実在としてとらえ、強国のはざまで揺れ動く民族の運命と社会的変容を歴史学者の目から描く。古代以来の長い孤立から近代に至り東西冷戦対立の一部分に組み込まれるに至った過程を、冷静に実証的に分析し、「古来チベットは独立国であったか」、あるいは「チベットは古来中国領土の一部であったか」という現在もなお引きつづく難問に挑むものである。

 「中国はチベットを侵略した」「中国は宗教を弾圧している」といった感情的な表現も見られる今日、米国国防総省・同中央情報局図書館・英国公文書館・同インド省図書館などでの多数の資料収集、ダライ・ラマはもちろん元CIA局員らとの面接により、細部にわたる歴史的事実を積み重ね理性的論議に努めようとする本書は、中国側とダライ・ラマ側それぞれの「チベット独立問題」をめぐる見解をまとめた付録部分など資料的価値も高い。

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